笹口健

人間の文化は、まず基盤としての生活の文化があり、そこから派生した感性の文化と知性の文化とも相互に影響を及ぼし合いながら発展して来たわけで、われわれが文化について語る場合には、これらの中のどの文化を念頭に置いているのかを明確にしておかないと、話しは仲々かみ合わないことになる。例えば、日本国憲法の「健康で文化的な最低限度の生活」という一節の「文化的」という言葉が意味するのは、恐らく主として「生活の文化」であり、生活の基礎である衣・食・住が、その時代およびその地域での平均的な水準に達しているということではないかと思われる。従って、こういう意味の文化を語っているときに、美術や哲学の話を持ち出すと焦点が定まらなくなってしまう。